私が偏愛した作家、車谷長吉、
夫人の高橋順子さんが近著「夫・車谷長吉」で
朝日新聞の「悩みのるつぼ」の回答者を
車谷長吉がしていたことについて
いみじくも書かれています、
長吉の回答は常識人には顰蹙を買ったが、
社会の底辺に暮らしたことのある作家の説教は
雄弁で、危ういながらも真実をはらみ、
人を納得させる力をもっていたと思う。
そう、私は車谷長吉のように
真実を見る目と説得力のある言葉を持ちたいと思い、
車谷長吉をそうさせた「焼き鳥の串刺し」の仕事に
長く憧れていたのです(バカです、バカ。
つまらないエゴを徹底的に排除させられる環境、
それは悟りにも似た何かを得ることができるのではないかと。
ちなみに焼き鳥串刺しの仕事の求人は少なからずあるのですが、
冷たい肉をずっと触っているのは体に良くないだろうな、と
人並みであることから逃れられない小市民の私でした。
ホテルバイトを辞めて一番気がかりだったのは運動不足。
筋肉は1日使わないと元に戻すのに3日かかるというではないですか!
ハードなホテルバイトで鍛えられた体(ぷっ)が
日に日にプニョプニョになっていくのがわかりました。
これはまずい、運動せねば、と思いましたが
いかんせん自分を律するということができない私、
ジョギングとかウォーキングとかストレッチとか
どうにも実行に移すことができません。
やはり強制力がないとダメです。
運動不足解消という明確な目的をもって
なんかいいバイトはないかなー、と探しましたところ、
ひとつの求人広告が目にとまりました。
大手通販配送センターでの軽作業
時給1000円
履歴書不要
交通費支給
単発のアルバイトってしたことないので
社会見学のつもりで登録してきました。
まずはここで心が折れるような扱いを受けたのですが、
それは後ほど。
大手通販会社がア**ンであるとわかり、
ア**ンの裏側を見学できる貴重な機会!とアガりました。
登録の翌日が早速と仕事です。
チビに、明日ア**ンでバイトなんだ♪って言ったら
大丈夫かー?と心配して貰えてウレシス!!
待ち合わせは最寄り駅で。
すでに数名の方が集まっています。
暗い。
仕切り役の人がいて、派遣会社の社員さんかと思ったら
被雇用者でした。
何度も来ているので、現場の取りまとめ役を任されているようです。
最寄り駅からマイクロバスとかで運ばれるのだろうな、
ドナドナ感があったのですが、ドナドナですらなくてですね!!
徒歩で移動です。
足を鎖でつながれている奴隷行脚のように思われてきました。
10分強歩いたとこに、広大な倉庫群が。
ア**ンの看板なんて出てませんよ。
従業員控え室に飲料水用の冷水機の群れと熱中症予防という塩飴の山。
現場の過酷さが感じられ怯えました。
同一奴隷チームだったのは(すでに私の中では奴隷認定)
男性6名、女性4名。
リピーターは6名、あとは私も含め初めてです。
現場に連れていかれました。
地平線が見えそうなくらいに広い。
そこにア**ンの商品が果てしなく積まれています。
すでにピッキングの作業が始まっています。
奴隷チームに仕事が割り振られました。
男性と女性がまず分けられました。
女性チーム、20代若めと40〜50代おばはんチームに分けられました。
現場の責任者の人が見ている名簿には
きっと年齢が書かれているのでしょう。
履歴書など提出していませんから、奴隷のデータは性別と年齢だけです。
若めチームはピッキング作業に配属。おばはん奴隷チームはですね、
超単純肉体労働でした。
募集要項に軽作業ってありましたけど、
軽作業ってどんな作業だと思いますか?
なんたって軽だから、重くないはず、と思いませんか?
重いんすよ。
ア**ンの配送センターって、おそろしくアナログ。
機械化されてる部分ってすごい少ないです。
ほとんどの作業が人手を頼りになされています。
かつて会社員時代、自動倉庫のシステムを作ったことあります。
倉庫内をロボットが動き回るって人はほとんどいない、
という光景だったのですが、
扱う物が違うからですかねー、ア**ンの倉庫内は
奴隷が走り回っているのですよ。
箱ありますやん、箱。商品が入ってるダンボールの箱。
そう、ダンボーね。
あの箱ね、人が組み立てるのですよ。
折りたたまれたダンボールが山のように積まれています。
梱包担当の人から、何号の箱何個作って!と指示が飛ばされます。
ダンボールは10枚ずつ紐でしばられています。
ダンボールの山(ちなみに私の身長の2倍以上)から
そのひとくくりを下ろして、指示された数だけ箱に組み立てるのです。
専用の接着剤やテープで箱にするのです。
ダンボールといっても、手で抱えきれないサイズです。
それが10枚分となると、とても重いのです。
高いとこから下ろして、ばらして、組み立てて、
その作業が延々続きました。
30分で泣きが入りました。
もう、帰りたい、と。
かつて佐川急便は、
借金もってる人じゃないと務まらないと言われてました。
そんだけきつい仕事、ということです。
ちなみに結構な額の借金をもっていた知人(男性)が佐川にいって
半日で逃げ帰ってきました。
おばはん奴隷がピッキングに回されなかったのは、
ピッキングという多少なりともパソコンを使う作業には
ふさわしくない、と判断されたからでしょう。
見てたらピッキングの作業もたいへんでしたよ。
カートに1注文分の商品を集めてまわるのですが、
パソコンとか重い家電もあります。
発行されたオーダーシートを見て、倉庫の中を歩き回るのです。
箱を組み立てる作業くらい機械化できんのかい!と思いましたよ。
できないんでしょうねー。
時給1000円費やしても、人にやらせたほうが早いのでしょうねー。
ピッキングも同じですが。
作業は4時間続きました。
後半、もう何も考えられません。
ダンボール組み立てマシーンとなってました。
束の間の昼休憩を終えて、午後の部。
これ、私が実際に買ったもののラベルなんですが、
見ていただくとわかるように
まずはメーカーから鳴尾の配送センターに
商品が送られてくるのです。
※私が働いたのは鳴尾じゃないです。
え、こんなとこに?ってとこにありました。
配送センターでは、メーカーから送られた商品をまず受け取って、
それを注文者に発送する、という作業が行われています。
午前中の作業は、注文者に発送する、という工程の一部です。
午後からは、メーカーから届いた商品の処理、
という作業に関わるものでした。
商品が届きますやん、その商品、梱包されてますやん、
商品を取り出したあとのダンボール、
それをばらす作業だったのですよ。
午前の作業のいわば逆です。
さまざまな大きさ、素材の箱、
それをカッターでひたすら切り開いて折りたたむのです。
折りたたまれたダンボールがまた山と積まれていきます。
あのね、ほんとに山なのですよ。
うず高く積まれたダンボール。
箱だけでなく、中に詰められた緩衝材の処理もあります。
アホほどゴミが出るのですよ。
あのね、ほんとアホほどですよ。
よく東京ドーム何個分って例えをするじゃないですか。
その量が実に具体的に実感できましたね。
午前の作業より多少マシだったのは、
解体するダンボールを集めるためにウロウロできたこと。
解体されたダンボールの山、
そして発送のための梱包用ダンボールの山、
なんて恐ろしい無駄なんだ、とアンチ物質主義者に
なってしまいそうでしたね!!!!
少なくとも、もう無闇にア**ンを利用するのは
やめよう、と思いました。
倉庫内で働いている奴隷たち、
誰もがしんどいので他者を思いやる余裕などありません。
現場を仕切る親方からは、もっと働け的に檄が飛ばされます。
熱中症で倒れても、自己責任となるのでしょう。
時給1000円というとちょっとは高報酬に感じますが、
移動時間を含めたら800円になってしまいます。
そう割のいい仕事とも思えないのに、
リピートされてる方にはここで働くメリットがある、
ということなんでしょうねー。
単純「軽」作業でしたが、やってるうちに
段取りよくするやり方もわかってきます。
継続は力なり、単発で違う職場ばかりまわっていたら
継続によるスキルアップというものは望めませんね。
ま、ダンボールを組み立て、解体する、という作業の
スキルアップができてもそれが昇給につながるかどうか、ですが。
でもねー、体力がついていきませんでした。
終いには、畳んだダンボールを運ぶってことも出来ませんでしたもの。
思い知らされたこと:
・56歳のおばはんに市場価値なし
・継続は力なり
・つまり、継続してもらえるような仕組みが必要
・安さの裏には奴隷の血の汗がある
もうア**ンの箱みたら、いとおしくてですね!!!!
誰がこれを作ったんだろう、しんどかったよね、と。
帰宅後チビに、地獄やったわ、と報告したら、
しんどかったん?と。
体力的にしんどいというより、心が折れました。
人はそう簡単に機械にはなりきれないものですねー。
派遣会社からは継続を求められましたが、お断りしました。
私のア**ン体験は1日で終了です。
甘いですか、根性が足りませんか。
さて、派遣会社での登録ですが、
これがまた人を人して扱わないというか。
登録用のタブレットが人数分用意されてます。
そこに必要事項を入力していくんですけど、
担当者と会話を交わすこともなく、目を合わすこともない。
派遣会社ってのは、働いてくれる人がいるからこそ、
自分たちのお給料も出るってものなのに。
人と職場のマッチング、とかホームページには
綺麗なこと書いてますけど、
そもそもどんなリソースもった人か、ってことを
わかろうとしていない。
ま、リソースがどうとか、ってことが必要とされない
単純「軽」作業ばかりなんでしょうけどねー。
登録会場には私も含め8名、
ひとりだけ男性で、あとはいかにも主婦って女性でした。
この日、仕事が決まったのは私だけ。
あとの方はみんな、私にはちょっと、と断っていらっしゃいました。
まー、私もア**ンでなければ断っていたかもしれませんが、
募集要項だけではあの地獄のしんどさはわかりませんでしたね。
なので断っていらっしゃったのが逆に不思議でした。
私よりも選り好みが強かったということなのでしょうか。
ちなみに唯一の男性は、おおげさでなくシャブ中かアル中かという方で、
その方ですら断ってましたからね!!
地獄を味わったおかげで、この仕事に比べたらどんな仕事でもマシ、
と思えるようになりました。
やはり私は車谷長吉の世界にはたどりつけそうもありません。